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外資系経理マンのページ

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小説(6)

本社からきたCFOと称する人間は 歳の頃は松田とそんなに変わらない歳格好で、昼過ぎの飛行機で成田についた。蒲田の事務所に着いたのは5時近くになっていた。おおきなキャンバス地のボストンをひとつ持った中肉中背の男で、深田と大きな声で挨拶をすると、社長室のドアはしめられ、10分、20分と時間は過ぎていった。赤城と安藤はなにごともないかのように、パソコンに向かって打ち込んでいる。松田は、安藤から指示のあった月末支払いの「物品購入依頼書」を整理していた。時計は6時近くになっていた。
「安藤、ちょっと」
 社長室があき、安藤は中にはいっていった。安藤の手にはさきほどまで作成してチェックを重ねていた、ロータス123で作成した資料があった。そのB4の資料といっしょにカシオの12桁どりの電卓、それもかなり年季のはいったものを手に社長室に入っていった。
 しばらくすると、そのCFOはドアから出てきて、安藤、深田と握手すると事務所を出ていった。江頭も、行き先表示板に手早く「NRと書いて、一緒に出ていった。
安藤は宿題と称するファイルを手に席に戻ってきた。そのファイル
は さきほど安藤が持ってはいったファイルで、そこに色取りあざやかな付箋が何か所かついていて、ぴらぴらしていた。
「これの証憑を用意しろだと、明日までに」
「明日ですか?」
松田が、びっくりした声をあげた。
「日本の時間じゃなくて本社の明日だよ。監査する会計事務所のアメリカの本部がデータほしいらしい」
ニューヨークと東京は時差が半日ある。あすということは 明日中に仕上げればニューヨークの明日と言う締切に間に合う。これには、松田も多いにこのあと助けられる。だから本社の始業前までに仕上げて、会社を後にすれば、クレーム対応は あすの仕事になるわけだった。

「じゃあ、そろそろ行こうか」
深田が、経理のところへ、すでに上着を着て、鞄をもった風体で顔をだしてきた。
「安藤、あしたまでだからな。とのむよー」
深田はそういうと、ポケットからマイルドセブンをとりだし、火をつけた。まだ、この時、オフィス内は禁煙にはなってなかった。自分の机の隣はあいているのだが、そこにはファイルが3冊重ねておいてあった。あけてみると、証憑類、つまり領収書とかのコピーが綴じ込まれていた。
「これ、なんですか?監査の資料ですか」
一瞬 赤城の顔色がかわったことに松田は 気付かなかった。
「あした説明するよ。赤城、キャビネットにいれとかないとまずじゃないか」
「監査とか決算の資料ですか?」
そのとき深田の携帯がなった。
「どちらでもないんですよ。王女様のうたげの後ですよ」
赤城が小さな声で松田に教えた
その「うたげ」の意味。翌日、赤城は知る事になる。

歓迎会は近くの焼き鳥屋であった。6時すぎに安藤、赤城と焼き鳥屋の縄のれんをくぐった。なぜか、深田がはちまきをしめてカウンターにはいっている。
「松田君、おれの焼き方は天下一品だぞ。それだけでもアンテラはいってよかった、と思えるからな」
別に焼き鳥を食べるために会社にはいったわけではない。とまどいともなんともいえない微妙な表情を松田は見せた。それとも深田は 焼き鳥やもやっているのか?
外資の経理をやりたくて はいったのだが.....。


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